東京中野の縫製工場「辻洋装店」| 新聞掲載 下

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BLOG 2021.10.04

新聞掲載 下


「服づくりは人づくりの道」

技術力を生かし新規ビジネス

連載もこれで終了です

開かれた工場で活性

辻洋装店は10年(2010年)から自社(東京・中野区)で工場見学会を行っている。「今やSNSの時代。物作りをクローズドにするのはナンセンス」と現社長の辻吉樹。物作り現場の“見える化”を促進し、国内縫製業の新しい道を切り拓いている。

見学会では、縫製の同業他社、アパレルメーカーや小売りバイヤー、服飾系学生の他に、縫製に興味のある一般の人も含めて多種多様な人々を受け入れている。自社ウェブサイトを通じて参加者を募り、3、4年目には年間のべ約500人以上が訪れるまでになった。「さすがに多すぎて対応に追われてしまうので、週1回に限定して、年間300人程度にした」(辻吉樹)と盛況だ。同業の縫製業者に、自らの物作りのノウハウを開示することで「相手も製造現場を見せてくれるなど、地方の工場との情報交換も盛んになった」。アパレルメーカーや小売りバイヤーには「縫製現場の社員が一生懸命働いて、質の高い物作りをしているところを実際に見てもらうことが大事」と言う。

都内での工場経営は高コストが前提になる。地価や人件費が高いなかでは、生産地としての採算が合わないとの見方が業界では少なくない。しかし、しっかりとした技術によって丁寧に生産される様を目の当たりにすることで、「安心して仕事を任すことができる“確かな物作り”に対する付加価値を納得してもらえる。私が言葉を尽くすよりも説得力がある」と言う。多様な人々が工場を訪れる機会を設けることで、DtoC(メーカー直販)向けの新たなビジネスの萌芽も見えてきた。

コロナ禍で縫製の誇り

20年4月、コロナ禍での緊急事態宣言が発令。日本アパレルソーイング工業組合連合会が経済産業省から要請を受けた、医療用ガウンの生産に関する情報が辻洋装店にも入った。当時の社長の辻庸介は「医療現場の切迫した状況を考えると、私たち縫製業が今こそ、国や社会に貢献しなければならない」と即時に判断し、生産に入った。通常、同社が生産を担うプレタの生産量は、社員一人当たり1日に2、3着を縫う。しかし、医療ガウンを採算ベースに乗せるためには、一人当たり1日80着以上の生産数量が求められる。「プレタ向けの多工程の丁寧な物作りが身上の当社にとって、量産型の衣料生産は逆に難しかった」と振り返る。そこで、同社は医療ガウンについては、20年春に採用した7人の新入社員を軸にしたチームを同年5月に編成して対応した。「医療従事者のために1着でも多くのガウンを生産することが人命救助につながる」と現場を激励しながらの生産は、21年3月まで続き、約1年間で合計20万着以上を生産。新入社員のなかには1日で100着を縫い上げる者もいた。

新興DtoCに対応

辻洋装店は、21年1月で専務を務めていた辻吉樹が代表取締役に就任、辻庸介が取締役会長に就いた。新体制のもとで経営環境の変化に対応しながら、企業の持続性を着実なものにする体制を整える。

最近では新興DtoCブランドへの供給を広げている。“イメージコンサルタント”望月順子がデザインするDtoCブランド「マグノリアコレクション(マグノリア)」の生産を担うなどして、新市場を開拓。辻洋装店は今年4月にマグノリアのワンピースを180着生産し、望月が自身のブログを通じて販売したところ即完売となった。胸元のエレガントなギャザーが特徴の”大人可愛い”シンプルなデザインが望月ファンの心を捉えた。その直後の同年6月後半から7月にかけては、前作と丈感が異なるワンピース2型、300着を販売して瞬く間に売り切った。さらに新作ワンピースを9月中旬まで受注して、多くのファンからオーダーを獲得した。望月は“イメージ・コンサルタント”として、主に富裕層の女性顧客を対象に、東京・銀座かいわいで、ラグジュアリーブランドの購買を顧客同伴でアドバイスする。ハイエンドでファッショントレンドを取り込んだ望月のセンスを支持するファンは多く、顧客の年齢層も30〜80代と幅広い。「マグノリアの新作を出すたびに、100着や200着はすぐにオーダーが付く」(辻吉樹)状況だ。

この審美眼に優れたインフルエンサーの感性を、具体的なパターンに落とし込んで製品化するのが辻洋装店のモデリストの役割だ。「うっとりする裾」(望月)と表現するイメージを、モデリストたちは“裾のまつり縫いを表に出さない”と解釈して設計。胸元のギャザーをエレガントに表現するためにサンプル作りは「望月さんが納得するまで繰り返した」。服飾技術を持たないインフルエンサーの理想を具現化するためには、縫製技術のノウハウと感性と理論があってこそ可能になる。

辻洋装店は現在、3Dモデリングソフトウェアの導入を検討している。サンプル製品は、アバターを使った3D・CGを通じてデザインすることでコストと時間を削減し、より多くのDtoCブランドへの対応を広げる構えだ。「縫製業は、縫製作業を担う直接部門と、CADや3Dモデリングを担う間接部門に分けることができる。本来であれば、直接部門の比率を高めることがセオリーだが、3Dモデリングの導入は間接部門を拡充することになる。これは新しいビジネスチャンスに向けた挑戦になる。自社オリジナルブランドの立ち上げも視野に入れていきたい」(辻吉樹)と語る。

辻洋装店は、今ある技術力を活かして、物作りをこの場(都内)で行い、新しいビジネスに商機を見出しながら、人を育て続ける。

上    

2021年10月4日  繊研新聞

 

東京都内の高級婦人服縫製工場三兄弟の三番目
ツジゴウ

 


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