東京中野の縫製工場「辻洋装店」| 企業の品性

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BLOG 2016.03.22

企業の品性


ハイ。昨年、『東京都中小企業技能人材育成大賞』を受賞してからの流れです。

 

『月間人事労務実務のQ&A』という雑誌に辻洋装店の記事が掲載されております。

 

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失礼ですが、まったく馴染みのない・・・というか知らない雑誌でしたので、恐縮ですっ(^^;

 

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企業事例

わが社の人事政策  辻洋装店

『服づくりは人づくりから 技術とともに人間性教育』

 

辻洋装店は高級婦人服のプレタポルテの製造で知られている。

依頼主は芦田淳氏などの有名デザイナーの企業。

その製造過程のすべては自社内で行い、プレスからボタンホールに至るまで外注はほとんど行わず、

高品質の製品を提供し、厚い信頼を得ている。

「よい人間性が良いものをつくる」という辻社長は、人材育成に力を入れている。

同氏のいう「洋服づくりは人づくりの道」という育成方針を聞いた。

 

地価や賃金が高い東京23区で存在感を示す婦人服のプレタポルテ縫製会社が1947年創業の辻洋装店だ。

従業員数は56人。「良い服づくりは人づくりから」を実践している企業である。

 

新人を採用して育成

 

ファッション業界は、デザイン、縫製などの製造および販売の3部門からなっている。

このうち縫製部門のほとんどは海外に移転してしまい、残るは3%前後といわれる。

しかし、国内に残った企業にはそれなりの存在理由がある。

辻洋装店はデザイナーなどのクリエイティブな人たちと密接にかかわりあいながら

高い品質の婦人服を製造している。

同社の品質は高く、芦田淳氏(株式会社ジュンアシダ)などデザイナーからの注文や、

一部にデパートなどからも注文を受けている。

 

パートタイマーも含めて60人弱の従業員数で、月間おおむね1800着、夏服であっても2000着の製造だ。

縫製の企業の主な職種は、裁断、縫製およびプレス(アイロン)の3つである。

裁断は現在CAD(コンピューター支援によるデザイン)が製図を描き、裁断機が自動的に裁断を行ってくれる。

 

縫製などの製造部門では、同社はチーム制をとっている。

これは同社のものづくりにおける最大の特徴点である。

4、5人がチームを組んで完成まで一貫して製造を行う。

現在7チームが編成されているので、チームメンバーは30人ほどだ。

流れ作業方式に比べると、非効率に思えるが、実は高品質な婦人服をつくるには、

この方法が最適というのが、辻庸介代表取締役の信念である。

 

同社の従業員数は56人だが、パートタイマーは6人と少ない。

パートはなるべく少なくするというのが同社の方針である。

以前同社で働いていて出産・育児のため退職し、育児が一段落して再就職してきた人たちである。

 

正社員主義を通しているのは「どの会社でも使うミシンは同じですが、

それを操作する人間によって、つくられるものが変わってくるからです。

大切なのは機械ではなく人間です」(辻社長)という経営哲学に基づいている。

 

採用は新卒採用を基本としている。それは新人から育成した方が、より優れた技術者になるからであるという。

4、5年経験がある人を採用すれば基礎はあるが、

「その人たちが当社の仕事をきちんとできるかといえば、それは難しい」と辻社長は言う。

20年縫製の仕事をしてきた人が、同社で修業したことがあるが、

3年経っても同社の4、5年生にかなわなかったという。

それほどに同社は人材を育成し、高品質の製品をつくり出すことに努力している。

それが著名なデザイナーから絶大な信頼を得ることにもつながっている。

早期離職や適正などさまざまにリスクはあるが、同社は新人から育成する方針を守り続けている。

 

多能工の育成を目指す

 

同社の採用は服飾専門学校の卒業生が殆どである。

高校卒も採用していたが、年齢が若く離職率が高いことなどから現在は服飾専門学校から採用することにしている。

好きでこの道に入ってきた人だけに、成長の度合いが早い。

会社との相性を確かめるためにも、インターンシップを受け入れている。

その受け入れにより、就職と採用のミスマッチは少なくなるという。

 

採用された新人は、チームに配属される。チームに新人の育成をまかせるのである。

新人はアイロンなどのやさしい仕事から習得を始め、

1年ほどアイロンの勉強をして2年目に入ると、簡単なミシンの作業に就く。

こうして次第に仕事に習熟して、おおよそ5年ほどでひと通りのことができる段階に到達する。

 

また、こうした習熟の段階に入ると、チームのリーダーになったり、仕事を教えたりもできるようになる。

さらに、CADを使った裁断などを行う人も出てくる。

裁断はCAMを使って行われるが、裁断に当たっては布の地の目が分かる人と分からない人とでは、

効率を品質に大きな差が出てくる。

ここで同社の日頃の教育がものをいうわけである。

 

ボタンの穴あけ、ボタン付け作業も、同社では内部で行っている。

ボタンホールの穴あけやかがり方、糸の太さなどに工夫をこらして、チームで処理するのである。

外注といえば、アイロン掛けなどのプレス作業も社内でこなし、外注することはない。

 

このように、同社の人材育成方針の重点は多能工の育成にある。

業界では、効率重視の観点から流れ作業方式での生産が多い。

チームで一貫して服を作ることは非効率という考えからだ。

 

しかし、多能工は洋服のことを、より総合的に理解しているわけで、

こうした従業員が多いほど高品質のものがつくれるというのが、辻社長の考えである。

「洋服全体のことが分かる人が増えれば増えるほど、服のクオリティが高くなり、完成度が高くなります。

すべて自社で手掛けた方が良いものができますから、基本的に外注に出すことはありません」と、

採算的には厳しくなっても、仕事は自社内で貫徹させている。

そして「社員がつくった服をみんなで見て、いい服ができたと喜び合えることが、

ものをつくる喜びに結びついている」という。

 

能力ランクづけの難しさ

 

新人は入社して1年間、服飾の専門学校で勉強の機会が与えられる。

同社ではこの人材育成については、

厚生労働省が実施している職業能力を開発するジョブ・カード制度を活用している。

社員が専門学校で座学と実習を受けることでキャリアアップを図り、国から助成を受けている。

 

教育は独自のカリキュラムで行っているので、場所や講師などが必要となる。

同業数社と共同して、専門学校において実施している。

15人を超えないと、採算がとれないことから共同での教育の場を設定している。

 

1年のカリキュラムで、半年が型紙作成、半年が縫製のコースとなる。

給与を出しながら、学校に通ってもらっている。

また、採用の際は、学校に通いたいという意欲を持った人を優先して採用している。

意欲の強さで、その後の成長に大きな差があるからだ。

 

また、ジョブカードは社員の能力育成にも活用されている。

習得すべき業務レベルの目標を示して、能力の開発を行うことで効果を高めるためである。

 

今後の課題として、例えば、ミシン作業の能力評価基準などを設定することなどを検討中だ。

現在のところ、能力ランクについては、リーダークラスが後輩の仕事ぶりを見て、

例えば、新人に教えられる段階にあるなどの判断を下しているが、

厳密な評価基準は設定されていない。

 

「こうした作業の難易度は非常に測りにくく、途中経過では分かりにくいところがあります。

製品ができあがってはじめてその良し悪しが分かります。

現在のところ、経験知を持ったリーダーが能力の判断をしているわけです」という(辻社長)。

 

生産性などについてはなるべく数字で判断できるようにしている。

時間当たりどれだけの生産が行われたかについては、数字で出せるようになっている。

個人の製造個数を短期間で測れば安定した数字は出ないが、

期間を長くとればより信頼できる平均の数字を出すことができる。

そうすると、その社員はもっと上にいってよいのではないか、などが判断できるわけである。

 

ただ、つくる服ごとに工程数も素材も異なる。同社が行う製造工程には百数十もの工程がある。

「例えば、袖をつくるといっても素材、工程によってその難易度が変わります。

しかも年間に200を超える型の婦人服をつくっています。

工賃も異なるので、工程の面ではクリアできても売上げは上がらないということもあります。

ですから、数字はある程度の判断材料にとどまってしまうわけです」。

 

なお、同社では評価の決定に当たって、能力のほかに勤続年数も考慮要素にしている。

勤続年数は経験年数を表しているので、

経験を踏んだ人ほど「味わいのある製品をつくることができる」からである。

それに「ベテランになると、失敗が少なくなります。

経験のない若い人は一生懸命に作業してとんでもないミスを犯すことがあります。

ですから能力と経験と両方をみるようにしています」という。

 

出産で退職し、育児が一段落して再就職したママさんが、同社には5人いる。

仕事ができることは間違いのないところから採用をし、

短い人で5時間働き、6時間、7時間、8時間の人もいるというように、勤務時間とその長さはバラバラである。

そこで、ママさんでチームをつくっている。

毎朝のミーティングができないこと、新人をこのチームに入れることができないこと、

など通常勤務の社員とは異なるチーム運用となっている。

 

多様な働き方は企業に求められた課題であるので、

現在、このママさんチームの個人個人の能力を最大限に生かすにはどのような方法があるか、

検討を進めているところだという。

 

「企業の品性」を高めるために

 

過去の円高や企業の海外進出などで、97%は海外に移転したといわれる縫製業界。

同社は地価と賃金の高い東京都区内に本社、工場を構える数少ない企業である。

都心に工場を置くことで「ファッションに一番近いところで服をつくるというのはメリットになる」という。

 

それはデザイナーと消費地に近いところで作業をしていることにあるという。

デザイナーと直に接触していることから、デザイナーの深い狙いを判断することができるからである。

 

「ことファッションに関しては、電話やファックス、メールなどでの意思疎通は不可能です。

服は見て触ってみないと、それを実感することはできません」と、辻社長は強調する。

このため、同社は商社を間に置いた仕事は一切していない。

 

東京に工場を置くもう一つのメリットは人材採用面にある。

「専門学校や大学を出た人が当社に入社してくることがあげられます。

これは地方で流れ作業を行っている工場では、あまりないことではないでしょうか」(辻社長)

 

また、服づくりの感覚を養うため、同社は都心で行われるファッションショーに、

社員数十人を派遣し見学させている。

これは信頼を得た芦田淳氏からの格別の配慮によるものだ。

良いものを社会に提供したいという辻社長と芦田淳氏の思いが結実したものであろう。

 

辻社長は良い製品をつくるには企業品性が大事という。

高品質の製品を提供し続けるには「働く人と経営者の人格が優れているという条件が必要と思います。

企業の品性が高ければ、素材品質も設計品質もついてきます。

企業の品性を維持することこそ最大の課題です。

人間は一代ですが、後の人はそれを継いでいかなければなりません。

そうでないとどこかで絶えてしまいます」。

同社は昭和22年(1947年)の創業。今年創立70周年を迎える。

企業の品性を次の世代に引き継ぐことが課題と考えている。

 

中野ケンシロウ

東京都内の婦人服プレタポルテ縫製工場でいつまでたっても修行中!

 

 


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