東京中野の縫製工場「辻洋装店」| コロナ禍で“縫い続けて”社会に貢献

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BLOG 2020.07.01

コロナ禍で“縫い続けて”社会に貢献


プレタと医療用ガウンを並行して生産

東京・中野区に本社とアトリエ( 縫製工場)を構える辻洋装店。「洋服づくりは人づくりの道」(辻庸介社長)をモットーに婦人プレタ向けのものづくりに定評がある。創業以来73年の歴史を持つ同社は、コロナ 禍の中でもものづくりを止めなかった。都市型ファクトリーは“縫い続ける”ことで社会に貢献することを選んだ。

「すべての面で最高品質の婦人服を作り続けることが、創業以来の目標」と言い切る辻社長。同社の従業員は約50人。縫製工程を担うアトリエには3人から5人の班編成で、特殊ミシンを含む約60台のミシンが稼働する。アトリエに配属された社員の平均年齢は20代後半と縫製工場としては非常に若い。毎年5、6人を定期採用し、社員の9割以上が女性で全員が日本人。本社に常駐するベテランモデリスト数人を生産工程の“司令塔”に位置付けながら、国産プレタポルテのものづくりを都内で追求している。

普段はレディスのスーツやドレスなどの重衣料の生産を主力としている同社においても、コロナ禍によって4月以降には政府・自治体から緊急事態宣言が発令されるなか、主力取引先のプレタメーカーからの発注が大幅に落ち込んだ。

服を縫う誇り

そんな折、日本アパレルソーイング工業組合連合会が経済産業省からの要請を受けた、医療用ガウンの生産に関する情報が辻洋装店にも入った。医療用ガウンの生産は国としての喫緊の課題。早急な量産を求められた。工賃の水準はプレタ製品の製造に比べると格段に安価だった。しかし、辻社長は「医療現場の切迫した状況を考えると、私たち縫製業が今こそ、国や社会に貢献しなければならない」と即時に判断。同社では医療用ガウンの生産を4月中旬から取り組み始めて、5月には本格的な量産体制に入った。国産プレタのアウターと並行して、医療用ガウンをそれぞれ半分ずつの割合で生産ラインを稼働させた。

同社は緊急事態宣言以降、工場内での感染予防に対しては細心の注意を払いながら操業を継続した。社員は定休日以外は休むことなく通常通りに出勤し、縫製作業に励んだ。

一方、保育園が休園するなど、社員の日常生活が大きく変化する中で、自宅で子育てをしなくてはならない社員に対しては、助成金を活用して賃金を補償した。女性のベテラン社員が多い同社の社風は、コロナ禍における労働環境整備への対応に表れた。辻社長は「工場の操業を止めて、行政の休業補償制度による給付金を受けるよりも、感染対策を行い、安全を確保しながら服を縫うことで、そこで働く社員の仕事に対する誇りや生きがいが得られる」との思いで社内をまとめ上げ、ものづくりに徹した。

普段と異なる作業

普段は国産プレタの縫製工場として、高品質の製品を縫う辻洋装店。今回、生産を担った医療用ガウンの縫製作業との差異を現場の社員に尋ねると「ミシンの音が違う」と言う。医療用ガウンは直線的な縫製が多いため作業時の「“勢い”と“スピード感”が違う。ダーッと一気に縫う感じ」。

また、裁断工程でも普段とは異なる面がある。医療用ガウンで使用する生地は、薄い不織布の表面に撥水性を付加するラミネート加工を施したものを使用する。そのため、いつも使用しているCAD/CAM(コンピューターによる設計・生産)の裁断を使うと、カッティングの際に微妙に熱を帯びるため、重ね合わせた生地同士が付着してしまうのだ。これに代わって活躍したのが数十年前に購入して長い間、倉庫に眠っていた西ドイツ製のサーボカッターだった。辻社長は「何かの際に役に立つと考えて残しておいたものが、コロナ禍の中で大いに活躍してくれた」と語る。しかし、「早くコロナ禍が明けて、丁寧に縫い上げるプレタ服だけを生産できるようにしたい。でないと、腕が鈍ってしまうよ」と微笑んだ。

チェックポイント   技能を磨く職場

辻洋装店は東京都が制定する「東京都中小企業技能人材育成大賞」の15年度大賞を受賞している。繊維業界では初受賞。同賞は都内の産業活性化を目的に、技能者の育成と技能継承で特に成果を上げた中小企業を表彰するものだ。

辻洋装店は社内の卓越した技能者の作業の動画を作成し、タブレット端末で社員が自由に見られるようにした。新入社員に対しては少人数のチーム構成による生産工程を組んで、先輩が傍について指導していることなどが評価された。また、育児休業後に復帰する社員を積極的に支援し、本人の希望をもとに柔軟な勤務を認めるなど、女性が働きやすい職場を目指している。

「縫製業は人の持つ技術の蓄積が最も大事。市場変化や不況だからといって人員削減する経営は採らない」と辻社長は言い切る。現場社員の能力向上を工場全体のものづくりに反映している。

記者メモ

洋服づくりは人づくりの道

辻洋装店は1947年に辻社長の母親がオーダーメイドの店を開業したところから始まる。戦後、日本が高度経済成長を迎える中でイージーオーダー商品などを百貨店から受注するようになり、現在のプレタポルテ専門の縫製工場へと進化してきた。同社の長年の試行錯誤の末に見えたことは「いい人間がいいものをつくる」ということ。同社は毎年、縫製業未経験の若者を採用して、育て続けている。なかには「手に技術をつけて」他社へ移る人もいるが「うちで育って、業界に貢献できれば良い。またうちで働きたいと戻ってくれる人もいる」と辻社長は言う。「洋服づくりは人づくりの道」を掲げる同社は、コロナ禍の非常時においても”働くことへの誇り”を中心に据えて、輝いている。

7月1日付
繊研新聞


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