東京中野の縫製工場「辻洋装店」| コロナ禍でも欠かさず技術者育成

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BLOG 2020.10.14

コロナ禍でも欠かさず技術者育成


若手向けに研修プログラム

「洋服づくりは人づくりの道」をモットーに掲げ、婦人プレタのモノ作りで定評がある辻洋装店。毎年服作りが好きな若者が全国から入社し、人材を養成してきた。コロナ禍の非常時のなか、プレタを継続しながら医療用ガウンを並行して生産することになったが、それでも新入社員や若手の技術者育成に欠かさず取り組んでいる。

「いつもと違って、縫製工場っぽいミシンの音がするでしょう」。縫製現場があるアトリエで辻吉樹専務は笑顔を浮かべる。プレタでは1人1日2、3着の生産でミシンの音も静かだが、アトリエ1階にある新入社員を中心にした医療用ガウンのラインが1日1人100枚縫い上げているのだ。

全国から6人入社

中野区上高田にある辻洋装店。現在、人数は45人で、全て日本人。本社にパターン、裁断、プレス・出荷部門があり、近くに3階建てのアトリエと呼ぶ縫製部門がある。

「全ての面で最高品質の婦人服を作り続けること」を目標としてきた同社は、試行錯誤の結果、「若くしても技術と同時に人間性を磨いてこそ、感性豊かで品質の高い洋服づくりができると確信」。毎年新卒者を採用し続け、人材育成に力を入れてきた。今春も東京、横浜、大阪の専門学校、福島の大学などの出身者6人を採用した。

しかし、4月の新型コロナ感染拡大を受けた緊急事態宣言で様相が一変する。婦人プレタは例年5月のゴールデンウィーク前までが春夏物生産の最盛期だが、年々早まり今年は4月半ばで終わった。緊急事態宣言で百貨店なども閉まったが、たまたま定番商品を受注しており、取引先と話し合って生産していた。

そんな折り、日本アパレルソーイング工業組合連合会( アパレル工連)が国の要請を受けて医療用ガウン(アイソレーションガウン)を生産することになり、アパレル工連傘下の東京婦人子供副縫製工業組合に加入している同社にも声が掛かった。「加工賃が1着いくらかわからないし、プレタの商品とはモノが違いすぎる。うちのように手が遅い会社はぶっ飛ばして縫うことはできないが、少しでも社会貢献をしようと引き受けた」と辻専務は話す。

同社では緊急事態宣言後も、社内で話し合って感染予防対策に配慮しながら操業。保育園が休園するなど子育て中の社員6人だけは雇用調整助成金の活用で休んだものの、他は全員が通常通り出勤した。また、周辺に稼働を理解してもらうため、厚労省からの依頼で医療用ガウンの生産に協力していると、組合が用意した文書を玄関に張り出した。

医療用は新人中心に編成

医療用ガウンの生産で主力になったのが新入社員。アトリエでは1つの班でジャケットやコート、ワンピースなどを丸縫いする。班は4〜5人で、これまで新人もそこに配置しOJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)で育成してきた。しかし生産性を阻害する部分などが起き、今年から新入社員だけを集めた先行班を作り、担当主任が訓練をスタート。その矢先に飛び込んできたのが医療用ガウンで、プレタと違ってスピードが求められる。辻専務は「未知のものだし、思い切って発想を変え、何も染まってない新人にやらせよう」と考えた。

こうして医療用ガウン縫製は新入社員5人を中心に2年目、3年目の社員を加えて10〜12人で編成。4月下旬から辻豪アトリエマネージャーが管理、担当主任が基本的な縫い方や動作などを指導する体制で始まった。

プレタのモノ作りを目指して入社した新入社員が医療用ガウンに携わることになり、モチベーションの低下を懸念した。しかし、この間1人も辞めていない。通常1年目はアイロン作業からだが、今年は最初からミシン作業を始め、新人とは思えないようなリズミカルな動きになったという。辻専務は「医療用ガウンで学んだスピードにプレタのノウハウをミックスすると今までにないスキルを身につけることができる」と見る。

1日1人100枚生産

裁断もプレタの小ロットの仕組みにしてあり、医療用ガウンの素材はラミネート加工しているため、CADが使えずサーボカッターを活用。医療用ガウンの縫製を空かさないように裁断の人員シフトも工夫して対応している。検品やタタミに手間が掛かるため、新入社員の1人を含め4、5人当てている。

当初は依頼された数量に応えるため、応援を受けて生産していた医療用ガウンも軌道に乗り、最初は1日1人5、60枚の生産量が、6月くらいから100枚まで上がり、現在は全体で1日約1000枚生産する。一方、アトリエにはもともと5班あり、それぞれ班の人数は減ったものの、各班ともプレタを継続して手掛けている。

技術テストを実施

こうした中、技術教育のプログラムを開始した。「先延ばしにするのは簡単だけど、続けることが大事」と辻専務。6月から新入社員を対象とした「クチュールレッスン」をスタート。毎月1回土曜日を使い、一年間掛けてジャケット縫製を学ぶもので、最後の2日間でもう一度ジャケット1着を縫い上げる。

また、年2回、1年目から4年目までを対象にして技術の勉強会・試験を実施している。前期は1年目がロック、直線、袖ぐり、袖口、あきみせ、2年目がジャケット裏付け、3年目が箱ポケット、アウトポケット、4年目が襟作り、襟付け、後期は1年目が前切り替え、後ろ作り、袖作り、2年目が裏付け、3年目がファスナー付け、フラップポケット付け、4年目が袖付け、パット付けで、事前に勉強会を開き、テストでチェックする。今年は前期が中止となったが後期は実施の予定だ。

ベテランの縫製作業を収録し、タブレット端末でいつでも見られるようにもしている。コロナ禍で人間教育が手薄になったとしながら、技術教育は欠かさず継続してきた。8月から来春の採用に向けたインターンも始めた。従来は1〜4人を1週間掛けて行なってきたが、今年は毎週月・火曜日、木・金曜日に1人だけ受け入れた。

新規先開拓を強化

同社はホームページを使うなどして新規取引先を開拓し、今では約10社の取引先ができた。新規先は品質と生産性のバランスを取るのが悩みで、パターンを担当するCADの部署に負担が掛かっているという。プレタは6月下旬から一部秋冬物の量産がスタートしたが、受注が減少する中、新規先の中にはEC専門でリピートしてくるブランドもあり、少なからず仕事量をカバーしている。「頭が固くて、婦人服の、プレタの、布帛の重衣料みたいなくくりで自分たちでカラを作って、それ以外はできないと避けていたが、今は問い合わせがあると全部話を聞いている」。

また、独自に企画したマスクを生産し、ネットの販売を経験した。従来当たり前のようだった残業もコロナ禍でほとんど解消するという副産物も生まれた。

「今まで技術を売っていただけで、商品を売ったことがなかったが、マスクで販売を体験したし、営業の重要さも分かった。コロナが反省点になった」。そう辻専務は前を向く。

2020年10月1日付
アパレル工業新聞


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